樋口一葉『翻刻 樋口一葉日記』「塵之中」(一八九三年七月一七日)

十七日 晴れ。家を下谷(したや)辺に尋ぬ。国子のしきりにつかれて行(ゆく)ことをいなめば、母君と二人にて也。坂本通りにも二軒計(ばかり)見たれど気に入(いり)けるもなし。行々(ゆき/\)て龍泉寺丁(まち)と呼ぶ処に、間口二間奥行六間計なる家あり。左隣りは酒屋なりければ其処に行きて諸事を聞く。雑作(ぞうさく)はなけれど店は六畳にて五畳と三畳の座敷あり。向きも南と北にして都合わるからず見ゆ。三円の敷金にて月壱円五十銭といふに、いさゝかなれども庭もあり。其(その)家のにはあらねどうらに木立どものいと多かるもよし。