ベンヤミン「歴史の概念について」(浅井健二郎 訳)

「新しい天使(アンゲルス・ノーヴス)」と題されたクレーの絵がある。それにはひとりの天使が描かれていて、この天使はじっと見詰めている何かから、いままさに遠ざかろうとしているかに見える。その眼は大きく見開かれ、口はあき、そして翼は拡げられている。歴史の天使はこのような姿をしているにちがいない。彼は顔を過去の方に向けている。私たちの眼には出来事の連鎖が立ち現われてくるところに、はただひとつ、破局(カタストローフ)だけを見るのだ。

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