ハーバート・リード『芸術の意味』(滝口修造 訳)

私が示す例は、偉大な日本の画家葛飾北斎(一七六〇‐一八四九)の色彩版画(「富嶽三十六景、神奈川沖浪裏」)である。……鑑賞者が普通のイギリス人であると考えよう。慣れた観察者が注意深く衝立(ついたて)の陰にかくれていたとすれば、この絵を見る人が眼をみはり、息をころし、おそらくは声を上げるのに気づくであろう。彼はそこに三十秒なり五分なり立ちつくしてから立去り、文句なしに受けた歓びについて、その後法外な最大級の形容詞をつらねた手紙を書くことだろう。