河上肇『自叙伝』

  敵よりも恐ろしからむ食ひ物のけふこのごろのこのともしさは
  人も我もただ食ひ物のこと思ひ日を過ごしゆく囚人のごと


この頃、食物がひどく不自由になって、好物の菓物が食べられないのは勿論のこと、味噌汁も毎朝食べることが出来ず、三度三度の飯すら、いくら外米が混っていても麦が混っていてもいいと思うけれど、やはり腹一杯はとても食べられず、一日中食い足らぬ気がしているので、私のような用なしの老人は、坐っていると思うともなく食べ物のことばかり思うようになって居る。