中井正一『美学入門』

一体人間は、二つの魂の誕生をもっているといえよう。世界がこんなに美しく、世の中がこんなに面白いものかと驚嘆する時がある。これが第一の誕生である。そしていつか、それとまったく反対に、人間がこんなに愚劣であったのか、また自分も、こんなに下らないものだったのかと驚嘆し、驚きはてる時がくる。これが第二の、魂の誕生なのである。しかし、この時、人々は、ほんとうの人生を知ったというべきであろう。