勝海舟『氷川清話』

世の中に無神経ほど強いものはない。あの庭前の蜻蛉(とんぼ)をごらん。尻尾を切って放しても、平気で飛んで行くではないか。おれなどもまあ蜻蛉ぐらいのところで、とても人間の仲間入りはできないかもしれない。むやみに神経を使って、やたらに世間のことを苦に病み、朝から晩まで頼みもしないことに奔走して、それが為に頭が禿げ鬚が白くなって、まだ年も取らないのに耄碌してしまうというような憂国家とかいうものには、おれなどはとてもなれない。