T.S.エリオット「形而上詩人」(矢本貞幹 訳)

詩人の精神というものは創作の用意がすっかりととのっている場合には、いつでも別々の離れた経験を合わせて一つにするが、ふつうの人間の経験はごたごたでしまりがなくてばらばらである。ふつうの人が恋をしたりスピノザを読んだりする場合、この二つの経験はたがいに何のかかわりもないし、またタイプライターの音や料理のにおいとも関係がない。だが詩人の精神の中ではこういう経験がいつも新しい全体を形成しているのだ。