ツワイク『ジョゼフ・フーシェ ある政治的人間の肖像』(高橋禎二・秋山英夫 訳)

およそ偉人英雄はただ存在するということだけによって、数十年数世紀にわたってわれわれの精神生活を支配していることは疑いをいれないところだが、しかしそれは精神生活だけのことである。現実の生活、実際生活においては、政治という権力がものを言う世界においては――そしてこのことは、あらゆる政治的軽信をいましめるために特に強調しなければならぬ点だが――すぐれた人物、純粋な観念の持主が、決定的な役割を演ずることはまれであって、はるかに価値は劣るが、しかしさばくことのより巧みな種類の人間、すなわち黒幕の人物が決定権を握っているのである。