井原西鶴『世間胸算用』(「問屋の寛闊(かんかつ)女」)

世の定めとて大晦日(おおつごもり)は闇なる事、天の岩戸の神代このかた、しれたる事なるに、人みな常に渡世を油断して、毎年ひとつの胸算用ちがひ、節季を仕廻(しまい)かね迷惑するは、面々覚悟あしき故なり。一日千金に替がたし。銭銀(ぜにかね)なくては越(こさ)れざる冬と春との峠、是借銭(しゃくせん)の山高ふしてのぼり兼たるほだし。