寺山修司『あゝ、荒野』

 レコード店の中には、様々な人生案内が氾濫していた。
「どうせあたしをだますなら、死ぬまでだましてほしかった」と西田佐知子がつめよると、べつのスピーカーから植木等が、「一言文句を言うまえに、あんたの息子を信じなさい」と言いのがれていたし、吉永小百合が、相手かまわずに「あなたのこと、マコって呼んでいい」と呼びかけると、ペギー葉山が「祭壇の前に立ち、いつわりの愛を誓う」とそれに同調していた。
 それは、まるで様々な人生の規格品のカタログであり、――
 客は、自分に似合いそうな「歌」だけを、その中から選んで買うという仕組である。