寺山修司『家出のすすめ』

 一人だけ暮らすことが不可能になり、福祉事務所から人が来て、わたしを親類のもとにあずけさせることになったのはその年の冬です。わたしが家を去る日、ふと思いついて畳をめくってみると、そこには母のヘソクリも成田さんの守護札もなくて、たった一冊の春本があるのを発見しました。わたしはそれを、福祉事務所の人にかくして鞄の中にしまいこみ、夜汽車の中でひとり読みました。それは、怖ろしい「わが読書」のはじまりでしたが、しかし、十三歳のわたしにはいささか難解にすぎたともいえます。わたしは汽車の中で、その春本のなかの、意味不明のところにすべて、ハツという名をはめて読んでみました。ハツというのは、わたしの母の戸籍上の本名でした。


 「いきなり腰に手をかけて引寄せ、しなやかな内腿に手を入れて、新芽のような柔かい彼女のハツに指をいれた。するとハツは、あれ! と身もだえしたが、そのままハツをくねらせると、だんだんハツになると見えて、ハツは腿のへんまで伝い流れて、ハツの瞳の色も灼けつくように情熱を帯びてくるのだった。そこで、時分はよしとハツのよくのびた片足をあげて、半ば後からハツをのぞませ、二、三度ハツをハツしてから、ぐっと一息にハツすると、さしものハツもハツのハツで充分だったので、苦もなくハツまですべりこんだ、その刹那……さすがのハツに馴れたハツも思わず『ハツ!』と熱い息をはいて、すぐにハツをハツしてハツハツとハツするハツにグイグイとハツハツ
 ハツ ハツ ハツ ハツハツ ハツハツハツハツハツハツハツハツハツハツハツハツハツハツハツハツハツハツハツハツハツハツハツハツハツハツハツハツハツハツハツハツハツハツハツハツハツハツハツハツハツハツハツハツハツハツハツハツハツハツハツハツハツハツハツハツハツハツハツハツハツハツハツハツハツハツハツハツハツハツハツハツハツ魂の母殺し 泣き笑う声かハツハツハツハツハツハツハツハツハツハツハツハツハツハツハツハツハツハツハツハツハツハツ」
 「雨に嵐にまた降る雪に つばさも傷むか 迷い鳥 知らぬ他国の山越え野越え ながす涙も母なればこそ」