レム・コールハース『錯乱のニューヨーク』(鈴木圭介 訳)

 はマンハッタンの形態的ヴォキャブラリーの両極端を構成し、その建築的選択肢の両外縁を形作っている。
 針はグリッド内に位置する最も薄く最も内容積の小さい構造物である。
 それは最大限の物理的インパクトと極小の土地面積とを両立させる。つまるところ、それは内部を持たぬ建造物である。
 球は数学的には最小の表面積で最大の容積を包含する形態である。それは、物や人、各種の図像や象徴を何でもかんでも呑み込んでしまう無差別な収容力を持っている。球は内部にそれらを共存させるという単純極まりないやり方によって、それらを相互に関連づける。
 個々の独立した建築としてのマンハッタニズムの歴史は、その在り方こそ多種多様ではあるものの、結局のところはこのふたつの形態が演ずる弁証法の歴史である。つまり針は球になろうと欲し、球はときに針になろうと試みるところから生まれる帰結なのである――こうした相互的な啓発の結果、一連の見事な混成物が生まれるが、この混成物の中で、人目を惹くと同時に立地上邪魔になりにくいという針の持つ魅力は、球の途方もない収容力と肩を並べ競い合うことになるのである。

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