ホルへ・ルイス・ボルヘス「不死の人」(土岐恒二 訳)

わたしは記憶のない世界、時間のない世界を想像し、名詞というものを知らない言語、非人称動詞または語尾変化のない形容詞だけの言語の可能性を考えてみた。こうして日々が終わり、年が暮れていった。しかし、ある朝、なにか幸福に似たことが起こった。雨が、強く、ゆっくりと降っていたのだ。