クシシュトフ・ザヌーシ「アンドレイ・タルコフスキーを回想して……」(岩本和久 訳)(アネッタ・ミハイロヴナ・サンドレル 編、沼野充義 監修『タルコフスキーの世界』所収)

アメリカでの公開討論の時、『ノスタルジア』の上映の前に、私はナイーヴなアメリカの観客の質問を通訳した。この観客は、アンドレイの中に精神的な指導者を見て、質問したのだ。「幸福になるために、私は何をせねばならないのですか?」アンドレイは、この質問に驚いて、語った。「それは、重要なことではありません! 幸福について考えることは、意味がありません。」「では、何を考えればよいのです?」アメリカ的実務能力を発揮して、若者が尋ねた。答えながら、アンドレイは、人間があらかじめ自分で答えを出さねばならない、太古からある終末論的問題を多く、引用した。「なぜ、私は存在するのか? なぜ、私は人生に招かれたのか? 宇宙における私の位置は、どのようなものか? いかなる役割が、私に用意されているのか? 人は、これらの問題に答えを見出したなら、従順に自分の使命を果たさねばならない。幸福は与えられるかもしれないし、与えられないかもしれない。」