J.ミシュレ『フランス革命史』(桑原武夫/多田道太郎/樋口謹一 訳)

 このことばは、一瞬ロベスピエールを動揺させたようだ。彼はコミューンの印のある紙をとりあげた。そこには蜂起へのよびかけが全文、書きあげられてある。彼はゆっくりとしっかりした手で三つの文字を書いた。この文字は今日なお目にすることができる。Rob……だがここで彼の良心が叫びをあげたのだ。彼はペンを投げすてた。
「さあ、つづけて書きなさい」と人々は彼に言った。
「だが、だれの名において?」
 このことばによって、彼はおのれの没落を決定したのである。が同時に、歴史における、未来における彼の救済をも決定したのだ。
 彼は偉大な市民として死んだのだ。