J-P・サルトル『嘔吐』(白井浩司 訳)

人間には恐らく自分の顔を理解することが不可能なんだろうと思う。それともそれは私が孤独だからだろうか。社会生活を営む人たちは、友人たちに見られているのと同じ顔を、鏡の中に発見することを学んだのだ。私は友人を持っていない。私の肉体がこれほどむきだしであるのは、そのためだろうか。まるで――そうだ、まるで、人間の住んでいない自然のようだ。