ヘッセ『知と愛』(高橋健二 訳)

おそらくすべての芸術の根本は、そしてまたおそらくはすべての精神の根本は、死滅にたいする恐怖だ、と彼は考えた。われわれは死を恐れる。無常にたいして身ぶるいする。花がしぼみ、葉が落ちるのを、くり返し悲しくながめる。そして、自分たちもはかないもので、まもなく衰えはてることの確かさを、自分の心の中で感じる。われわれが芸術家として像を作ったり、あるいは思想家として法則を求め思想を公式化するとき、大きな死の舞踏の中からせめて何かを救い、われわれ自身よりながい寿命を持つ何かを樹立するために、そういう営みをするのである。