ルソー『告白』(桑原武夫 訳)

 わたしが愛する無為は、なにもせずに腕をこまねき、じっと動かないばかりか、なにも考えないでいるのらくら者の無為ではない。それは、なにかするというのではないが、たえずからだを動かしている子供の無為であり、手をやすめて無駄ばなしをしている老人の無為である。たわいもないことに熱中するのがわたしは好きだ。百ものことをやり始めてなに一つやりとげない。思いつくままに行ったり来たり、一瞬一瞬に計画を変えたり、ハエの一挙一動を見まもり、下になにがあるか見ようと岩をひっくりかえしたり、十年もかかる仕事を熱意をもってくわだてるかと思うと、十分もするとあっさりやめにする。要するに、なんの秩序も脈絡もなくひねもすぶらぶらし、なにごとにも一瞬一瞬の気まぐれだけにしたがう、こうしたことが好きなのだ。