竹内敏晴『教師のためのからだとことば考』

 ヨーロッパ人の姿勢の基本は、キリスト教会のように、上へ上へと伸びあがります。そのいちばんはっきりした例はバレエでしょう。爪先立ち、胸は高く支えられ、頭はもたげられる。そして手は水平に、無限のかなたへ向かってさしのべられる。歩くにも腰から動き、膝を前へのばし、俊足で大地を蹴り、腕を振る。つまり大地は人がそこから出発し飛躍する地点です。
 日本人の基本姿勢は、腰を割り水平に支えたまま、膝をゆるめ、足のうらを大地にぺちゃりとつけ、上体はゆるめて腰にのせておく。歩く時は腰を水平に保ったままややがにまた風に、ほとんど手は振りません。歌舞伎や日本舞踊の基本はみなこれです。これは大地に苗を植え泥に踏みこむ水田農耕民の姿であり、大地は帰るところ、同化する相手だといえましょう。