柄谷行人「夢の世界」

 要するに、われわれがふつう夢と呼んでいるのはすべて「事後の観察」である。夢の世界ではわれわれは文字通り夢中に生きているのであって、しかも生きていることとそれを眺めることとに何の乖離もなく生きているのだ。そこでは「在りさうもない事だけ」が起っているが、しかもそれを何の疑いもなく受けいれている。「本当のリアリティはつねにリアリスティックではない」とカフカがいうのは、この意味においてである。