ロラン・バルト『物語の構造分析』(花輪光 訳)

「テクスト」は複数的である。ということは、単に「テクスト」がいくつもの意味をもつということではなく、意味の複数性そのものを実現するということである。それは還元不可能な複数性である(ただ単に容認可能(アクセプターブル)な複数性ではない)。「テクスト」は意味の共存ではない。それは通過であり、横断である。したがって「テクスト」は、たとえ自由な解釈であっても解釈に属することはありえず、爆発に、散布に属する。実際、「テクスト」の複数性は、内容の曖昧さに由来するものではなく、「テクスト」を織りなしている記号表現の、立体画的複数とでも呼べるものに由来するのだ(語源的に、テクストとは織物のことである)。

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