勝小吉『夢酔独言』

 岩のかどにてきん玉を打つたが、気絶をしていたと見へて、翌日漸々人らしくなつたが、きん玉が痛んであるくことがならなんだ。
 二、三日過ぎると、少しづゝよかつたから、そろ/\とあるきながら貰つていつたが、箱根へかゝつてきん玉がはれて、うみがしたゝか出たが、がまんをして其あくる日、二子山まであるいたが、日が暮れるから、そこに其晩は寝ていたが、夜の明方、三度飛脚が通りて、おれにいふには、「手前ゆふべはこゝに寝たか」といふゆへ「あい」といつたら、「つよひやつだ。よく狼に食われなんだ。こんどから山へは寝るな」といつて、銭を百文斗り呉た。