神谷美恵子『こころの旅』

エリクソンのこしらえた概念でもっとも興味あるものの一つは「ネガティヴ・アイデンティティ」である。彼によるとアイデンティティの感覚を失った場合、それはしばしば、家庭や地域社会で提供される役割を拒否するかたちとしてあらわれる。男性としての役割、女性としての役割、国家・民族の一員としての役割などが拒否され、周囲の者からもっとも望ましくない、と考えられる役割がえらばれることを「ネガティヴ・アイデンティティの選択」とエリクソンはよぶ。