宮本常一『家郷の訓』

 土はあたたかいものであるとともに、またきびしいものであった。このきびしさは土に生きるものが最もよく知っていたのである。故に土の掟に従ったのである。自らの生活にそのきびしさに応えるだけの態度がなくては真に百姓は勤まらない。父はこれを、
 「土の性(しょう)を知らぬようでは百姓が勤まらん。」
とも、
 「百姓が土(どろ)を恐れんようでは一人前とはいえぬ。」
とも言った。子供の頃にはこういう言葉をきいてもよく分らなかったけれど、今にして分るように思う。