土居健郎『表と裏』

オモテが顔を意味することは、今でも「オモテを挙げる」という云い方をするので、一般に知られていると思うが、ウラが心を意味することはそれほどには知られていないかも知れない。もっとも古語でウラが心を意味するのは、「何気なく」という意味に使われた「うらもなく」という成句だけらしく、それ以外はすべて他の言葉と結びついた形である。例えば、「羨む」はウラすなわち心が病むこと、「裏切る」は(相手の)心を切ること、「恨む」は(相手の)隠れた心を見ること、「うら悲しい」「うら淋しい」は、何となく心が悲しいことである。このようにオモテとウラはもともと顔と心を意味するので、オモテとウラの関係も顔と心の関係に則り、それを一般化し抽象化したものであると考えられる。