高橋源一郎『文学なんかこわくない』

 もし、現実の存在の方が虚構より、実際的というか現実的というかとにかくそういう頼りがいのあるものであるなら、苦しみ悩む人はどうしたって現実のなにかを見たり触ったりするはずである。
 にもかかわらず、昔から死ぬか生きるかの瀬戸際で、人は部屋に閉じこもって詩集なんか読んだりしてきたのだ。
 あれは虚構の存在の方が現実より頼りがいがあるからではないのか。