山田太一『いつもの雑踏 いつもの場所で』

 四十代のサラリーマンがふたり、風を切って早足で歩いてくる。なにをしゃべっているのかと、すれちがう時耳を向けると、
「正直いってね、あそこのめんたい(明太子)食うまでは、××のが一番だと思ってたんですよね」
 なんていっているのである。振りかえると、その体格のいい二人が肩をゆすってぐんぐん遠くなって行く。
 そういうのが、なんだがいいのである。

   ※太字は出典では傍点