稲垣足穂『少年愛の美学』

笑いは、確かに凝固を解きほごす作用を持っているが、他面は一種の慣れ合いである。つまり怖いからでないのか? 恐怖すべき或物を眼前にして、これが格別に崇高とか厳粛とかの印象を与えなかった場合に、われわれは笑という誤魔かしの手によって、当のものと妥協しようとするのである。

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