ル・クレジオ『愛する大地』(豊崎光一 訳)

   たまたま地上に
   ぼくは生れた
   生ける人間として
   ぼくは大きくなった
   画の中に閉じこもって
   日々が過ぎた
   夜々が過ぎた
   ぼくはああした遊びをみなやってみた
   愛された
   幸せだった
   ぼくはこうした言葉をみな話してみた
   身ぶりを入れ
   わけのわからぬ語を口にして
   それとも無遠慮な質問をして
   地獄にそっくりな地帯で
   ぼくは大地に生み殖やした
   沈黙にうち克つために
   真実のすべてを言いつくすために
   ぼくは涯しない意識のうちに生きた
   ぼくは逃げた
   そしてぼくは老いた
   ぼくは死んで
   埋葬された。