大江健三郎「「家族のきずな」の両義性」

たいていね、権力者というものは、おまえたちがかわいそうだから殺してあげようという仕方で、自分の権力のもとの民衆の死をみちびくようなことをするんですよ。私たちの国の永年の権力構造もそうした論理の上に成り立ってきたんです。われわれのことを赤子として子供のように扱って、すべての面倒をみるためにわれわれを殺す、そういう論理で戦場に駆り立てるということをしたのです。