説経節「信徳丸」

「やあいかに信徳丸、御身がようなる異例は、これより熊野の湯に入(い)れ。病(やもう)本復申すぞや。いそぎ入れや」とおしあり、消すがようにお見えなし。信徳この由聞こしめし、「今のはわれらが氏神、清水の観世音にて、あるやらん」と、虚空を三度伏し拝み、さらば教えにまかせつつ、湯に入らばやと思しめし、天王寺を立ち出で、熊野を訪うておいそぎある。