2010-10-18から1日間の記事一覧

説経節「信徳丸」

若君御覧じて、座敷よりとんで降りさせたまい、するすると走り寄り、「のう父御様、信徳参りて候」と、抱(いだ)きつきてぞ泣きたもう。御(おん)涙のひまよりも、かの鳥箒(とりぼうき)を取り出だし、両眼(がん)におし当て、「善哉(ぜんざい)なれ平…

説経節「信徳丸」

信徳この由聞こしめし、「名のるまいとは思えども、今はなにをかつつむべき。乙姫殿かや恥ずかし。乳房の母に過ぎおくれ、継母(けいぼ)の母の呪いにて、かように異例を受けたるぞや。親の慈悲なるに、わが親の邪慳やな、天王寺にお捨てあって御ざあるが、熊…

説経節「信徳丸」

「熊野参りのその中に、四方(よも)の景色を、筆に写さんとせしけれども、心の絵にも写しかね、筆捨てにより、筆捨松(ふですてまつ)とは申せども、さてみずからは、夫(つま)に会わねばおもしろもなや。あらわが夫が恋しやな。かほど尋ねめぐれども、行…

説経節「信徳丸」

「たとい熊野の湯に入りて、病(やもう)本復したればとて、この恥を、いずくの浦にてすすぐべし」

説経節「信徳丸」

「熊野へ通る病者(やもうじゃ)に、斎料(ときりょう)たべ」

説経節「信徳丸」

「やあいかに信徳丸、御身がようなる異例は、これより熊野の湯に入(い)れ。病(やもう)本復申すぞや。いそぎ入れや」とおしあり、消すがようにお見えなし。信徳この由聞こしめし、「今のはわれらが氏神、清水の観世音にて、あるやらん」と、虚空を三度伏…

説経節「信徳丸」

「思い内にあれば、色外(ほか)にあらわるる、恥ずかしや。今はなにをかつつむべき」