「暗夜行路」志賀直哉

村々の電燈は消え、その代わりに白い煙がところどころに見え始めた。しかしふもとの村はまだ山の陰で、遠いところよりかえって暗く、沈んでいた。謙作はふと、今見ている景色に、自分のいるこの大山(だいせん)がはっきりと影を映していることに気がついた。影の輪郭が中の海から陸へ上がってくると、米子の町が急に明るく見えだしたので初めて気づいたが、それは停止することなく、ちょうど地引網のようにたぐられて来た。地をなめて過ぎる雲の影にも似ていた。