「或日の大石内蔵助」芥川龍之介

このかすかな梅の匂いにつれて、冴え返る心の底へしみ透ってくる寂しさは、このいいようのない寂しさは、一体どこから来るのであろう。――内蔵助は、青空に象嵌をしたような、堅く冷たい花を仰ぎながら、いつまでもじっとたたずんでいた。