「交友について」福原麟太郎

酔っぱらいがよく私にいう。酒がかあっと利いて来て、自分が無限に拡がったような気持になったとき、酒の法悦境(ほうえつきょう)があるのですよ。それを知らないで酒を飲むなんて無駄だ。つまらないですよ。あなたは人生の真の喜び、真の解放を知らないのだ。あわれな人だ。
 あわれな私は、友達の喜びを本当に知らないのであろう。ベーコンの徒であろうか。だが、私は、私に与えられた小さな盃で、私の人生の酒を飲んでゆく。君達は、大杯(たいはい)を傾けて、自由に酔っぱらいたまえ。抱きあって、ころがりまわって、その喜びを満喫したまえ。私たちは微吟浅酌(びぎんせんしゃく)だ。あるいは静かに語る。それもまた良いものだ。