「蟻と松風」竹西寛子

中空に無数の羅(うすもの)の襞を寄せ続けているような松風の音が、低いけれども規則正しい波音に重なる時、なぜかものの始まりの時に立ち会わされているような自分を知らされる。私は今、どうしてここにいるのか。これからどこへ行こうとしているのか。行かされるのか。そんなことを、書物を手にしてではなく考えさせられる。既知の顔、未知の顔が現れては消え、私の軀が次第に軽くなって行く。