「溺レる」川上弘美

「死にましょうか」モウリさんが言った。
「そうねえ」わたしはあまり考えずに答えた。
 そうねえ、というわたしの声が空に消えてから、二人で海岸を歩きはじめた。寒い日に海岸なんか、歩きはじめてしまった。
 淡い雪が降っていて、積もったばかりの雪には、何の跡もついていなかった。
「死に日和ですね」
「ちょっと死に日和すぎて困ってしまいますね」
 そんなことを言いあいながら、浜をずっと歩いた。