「休憩時間」井伏鱒二

 ――今は最早、私は知っている――青春とは、常にこの類の一幕(ひとまく)喜劇の一(ひと)続きである。壁に人体の素描をこころみるものは、なるべく大きな人体を肉太に描け。編上靴(あみあげぐつ)の紐をしめるものは、力をこめて紐をしめよ。窓から桜の花をむしりとろうとするものは、思いきって大きな枝を折れ。足駄(あしだ)をはいて教場へはいるものは、わざと大きな足音をたててはいって行け。学生監の腕力や叱り声に驚くな! 束の間に青春はすぎ去るであろう。そうして、休憩時間などは――その楽しい追憶以外には決して……