「橋づくし」三島由紀夫

「一体何を願ったのよ。言いなさいよ。もういいじゃないの」
 みなは不得要領に薄笑いをうかべるだけである。
「憎らしいわね。みなって本当に憎らしい」
 笑いながら、満佐子は、マニキュアをした鋭い爪先で、みなの丸い肩をつついた。その爪は弾力のある重い肉に弾かれ、指先には鬱陶しい触感が残って、満佐子はその指のもってゆき場がないような気がした。

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