吉原幸子「初恋」

ふたりきりの教室に 遠いチンドン屋
黒板によりかかって 窓をみてゐた


女の子と もうひとりの女の子
おなじ夢への さびしい共犯


ひとりはいま ちがふ夢の 窓をみてゐる
ひとりは もうひとりのうしろ姿をみてゐる
ほほゑみだけは ゆるせなかった
おとなになるなんて つまらないこと


ひとりが いたづらっ子に キスを盗まれた
いたづらっ子は そっぽをむいてわらった


いたづらっ子は それから いぢめっ子になった
けふは歯をむいて 「キミ ヤセタナ」といった


それでひとりは 黒板に書く
オコラナイノデスカ ナクダケデスカ


ひとりはだまって ほほゑみながら
二つの「カ」の字を 消してみせた


うすい昼に チンドン屋のへたくそラッパ 急に高まる