道元『学道用心集』

誠にそれ無常を観ずる時、吾我(ごが)の心(しん)生ぜず、名利(みょうり)の念起こらず、時光(じこう)の太(はなは)だ速やかなることを恐怖(ぐふ)す。所以(ゆえ)に行道(ぎょうどう)は頭燃(ずねん)を救う。
〈解釈〉そもそも自己ぐるみのすべてのものが無常としてある事実を真に観察するときには、日ごろの吾我(おれ)がという自我中心の念(おも)いや考え、そこに根差す名声とか地位とか、利益を追い求めようとする思いは起こってはこず、(それよりも)時や日があっという間に移り過ぎてゆく事実に恐れおののくものである。だからこそ、真実の目覚めに生きる歩みは、あたかも頭髪(かみ)に火がついて燃えるのを必死に消し止めて身を守るように、ひたすらなる真剣さとなるものである。