夏目漱石「英国の文人と新聞雑誌」

 文人詩人の資格を具へて居つても眼丁字(ちょうじ)なしと云ふ様な者は詩想を表彰する事が出来ぬから論外である。文章を綴り句を成す力量があつても陶淵明寒山拾得の様な人々は自分の作を天下後世に伝へたいと云ふ考がないから是も特別である。然し一般に文学者と呼ばれ又自ら文学者と名乗る者は独りで述作をして独りで楽んで居る様な者は極めて鮮(すくな)い。況んや文を売つて口を糊(のり)するといふ場合に至れば必ず何かの手段を以て世の人に自作を紹介し様と企てる。新聞雑誌は此紹介物として頗る便利なものであるからそこで文人と新聞雑誌との関係が生じてくる。此関係を不秩序ながら少し述べ様と思ふ。