ハイネ「問い」(全) (片山敏彦 訳)

寂しい夜の海ぎしに
若者が一人立っている。
胸には愁いが充ちており、頭は懐疑で一杯だ。
若者は憂鬱な声で波に問う。


「人生の謎を解いてくれ。
一番古いむつかしい謎を、
エジプトの僧の頭巾を冠った頭、
ターバンを巻いた頭や、黒の縁(ふち)無し帽をかぶった頭、


さては鬘(かつら)をつけた碩学の頭や、その他無数の人間の
哀れな汗ばんだ頭が考えあぐねたあの謎を。
いったい、人間の意義とは何だ?
人間はどこから来て、どこへ行くのだ?
あの天上の、金に光る星々には、何者が住んでいるのだ?」


波は果てしない呟きをくり返し、
風が吹き、雲が飛び、
星々は光る、無関心に冷たく。
そして一人の愚者が返事を待っている。