リルケ「予め失われている恋びとよ」(抄) (富士川英郎 訳)

予め失われている
恋びとよ いちども現われたことのないひとよ
私は知らないのだ どんな音調(しらべ)がお前に好ましいかを
未来の波がたかまっても もはや私はお前をそこに
見分けようとはしない 私の内部の
すべての偉大なイマアジュ 遠い国で見知った風景が
都会が 塔が 橋が 思いがけなく
曲った道が
むかしの神々の生活をないまぜていた
あの壮大な国が
私の内部でたかまって 去ってゆくひとよ お前を
みんな告げているのだ