高橋順子「幸福な葉っぱ」(全)

木の下で雨宿りをしたことがあったね
わたしの心に山のしずくが落ちていた あの
 ころ
葉むらの中のまるい小さな空を見上げたこと
 があったね
葉っぱの勲章を服にびっしり付けて


それらを忘れないことが
いいことかよくないことか知らない
なにか急いでいたのが
それらを早く失うためだったかどうか
知らない


   †


いつか夢が終ると 思っていたのだから
幸福だったのだろう
或る日剣のような葉っぱの悲しみが来るだろ
 う と


臆病な器官が わたしの中にはあって
もっと悲しい悲しみの
予行演習を始めるのだ


   †


去っていったら
去っていったと思えばいいのだけれど
鳥ガ飛ンデイッタラ
鳥ハイナクナッタと


このごろ去っていきたい鳥に
行かないでと繰り返しているのは
九官鳥みたいな
言葉の覚えかたをしてしまったのかしら
わたしの九官鳥
もうお黙り