百田宗治「青空と宿命」(全)

一人の父親が
はじめて子供を野原へ連れて行つた。
青く晴れた空とあたらしい芝生のなかで、
子供はゴム毬のやうに軽く弾んだが、
遠い樫の木の根方に歩み寄つて行くその後(うしろ)
 姿を見て、
父親はそつくり幼(ちいさ)い自分がそこを歩いて行く
 やうな気がした。
どんな人生がそこに封じられてあるのだら
 う?
しかしそれさへも父親は、
自分と同じものがそこに延びて行きさうに思
 へた。
青い空と自由な野放しの空気のなかで、
一人の父親が重い不愉快な宿命を感じた。