大手拓次「河原の沙のなかから」(全)

河原の沙のなかから
夕映の花のなかへ むつくりとした円いもの
 がうかびあがる。
それは貝でもない、また魚でもない、
胴からはなれて生きるわたしの首の幻だ。
わたしの首はたいへん年をとつて
ぶらぶらとらちもない独りあるきがしたいの
 だらう。
やさしくそれを看(み)とりしてやるものもない。
わたしの首は たうとう風に追はれて、月見
 草のくさむらへまぎれこんだ。