与謝野鉄幹「誠之助の死」(全)

大石誠之助は死にました、
いい気味な、
機械に挟まれて死にました。
人の名前に誠之助は沢山ある、
然(しか)し、然し、
わたしの友達の誠之助は唯一人。


わたしはもうその誠之助に逢はれない、
なんの、構ふもんか、
機械に挟まれて死ぬやうな、
馬鹿な、大馬鹿な、わたしの一人の友達の誠
 之助。


それでも誠之助は死にました、
おお、死にました。


日本人で無かつた誠之助、
立派な気ちがひの誠之助、
有ることか、無いことか、
神様を最初に無視した誠之助、
大逆無道(ぶだう)の誠之助。


ほんにまあ、皆さん、いい気味な、
その誠之助は死にました。


誠之助と誠之助の一味が死んだので、
忠良な日本人は之(これ)から気楽に寝られます。
おめでたう。