村上春樹『ダンス・ダンス・ダンス』

「あの人、いつもいつも私のことを傷つけるのよ。でもあの人、そのこと全然わかってないのよ。そして私のことを好きなのよ。そうでしょう?」
「そのとおりだよ」
「私どうすればいいの?」
「成長するしかない」
「したくない」
「するしかないんだ」と僕は言った。「いやでもみんな成長するんだよ。そして問題を抱えたまま年をとってみんないやでも死んでいくんだ。昔からずっとそうだったし、これからもずっとそうなんだ。君だけが問題を抱えているわけじゃない」
 彼女は涙の筋のついた顔を上げて僕を見た。「ねえ、あなた人を慰めることってできないの?」
「慰めてるつもりなんだけど」と僕は言った。
「絶対にずれてるわよ」と彼女は言った。