夏目漱石「倫敦消息〔『色鳥』所収〕

此多事なる世界が日となく夜となく廻転しつゝ、波瀾を生じつゝある間に、僕の住む此小天地にも小回転と小波瀾が続きつゝある、起りつゝある。僕の下宿の主人公は其尨大なる身体を賭して差配と雌雄を決せんとしつゝある。さうして僕は君の病気を慰めるために此手紙を認めつゝある。